平成31年2月定例会(2019.3.11)

議案質疑

 第9款建設費 第9項住宅費 高齢者等居住安定推進事業について伺います。
 近年、「子どもの貧困」という問題がクローズアップされ、本県でも大村知事の強いリーダーシップのもと、平成28年に実施した「愛知子ども調査」をベースに、全国的にみて先進的な施策が展開され始めています。こうしたなか、今回、私はシングルマザーが直面する住まいの問題について取り上げたいと思います。
 2月20日の参議院「国民生活・経済に関する調査会」にて、参考人招致された立教大学コミュニティ福祉学部所属日本学術振興会RPD研究員の葛西リサ先生が、この問題について大変わかり易く発言されていましたので、その概要を紹介させていただきます。
 まずはシングルマザーの貧困の状況についてです。全国でシングルマザーは123万世帯存在すると言われており、この数字は諸外国と比較すると決して多くはないものの、かなり増えてきているそうです。こうしたなか問題となってくるのが経済的な貧困問題です。平均収入は243万円、さらに勤労収入となると200万円。これは一般世帯の三分の一程度であり、薄給の仕事を長時間労働して何とか生活費を稼いでいる現状です。8割が就労しているなか、正規社員は4割程度とのことで、これはキャリアがない、つまり「結婚を機に退職した」、「子どもが小さく育児と仕事の両立が困難でパートに移行した」といったことに起因しています。
 では、シングルマザーはどのように住宅問題に直面するのでしょうか。多くは、離婚前後に転居を余儀なくされています。「家が夫の名義であり、とどまることができない」、「新生活を迎えるにあたり、夫の払っていた家賃を払うことができない」、「実家に戻る」、「DVで家にいられない」といった理由が挙げられます。
 そこで、彼女たちはどのような住宅にたどり着くのかというと、多くは民間借家または実家になります。例えば、公営住宅にはシングルマザーの優先枠が設けられておりますが、時間的に間に合いません。シングルマザーに多くある緊急に住宅を確保したいという要望と、「4か月も待てない」、「当たらない」実態がマッチしていないのです。また、立地が悪い等の比較的空いている公営住宅の場所となると、シングルマザーは自家用車の所有率が低く、通勤ができないことなどから、自立した生活を送ることができません。すなわち、公営住宅は彼女たちにとって使いづらい制度となるそうです。
 また、児童福祉法の施設で母子生活支援施設といったものがあるのですが、実情としてより深刻なシングルマザーを入れたい。つまりはDVや児童虐待を受けているシングルマザーを入れたいというような意図が働きやすく、一般のシングルマザーには使いにくいとの声が聞かれるそうです。
 よって、シングルマザーは自助努力で住宅確保をしなければならないのが実情です。一番の不安定期に「どうやって彼女たちに住宅を供給するのか」ということについて、私たちはもう少し考える必要があるのではないかと思います。さらに、住宅の確保だけ考えればいいというわけにはいきません。シングルマザーは所得が低いため、低質な住宅すなわち狭小住宅に依存せざるを得ないのです。当事者の声を拾うと、「小学生の二人が床にはいつくばって勉強をしている」、「壁にプリントをつけて宿題をしている」「一室しかなくお母さんが疲れて帰ってくるので勉強する空間がない」といった意見が上がってきます。子どもの貧困対策として学習支援を積極的に行っていく取組が展開されていますが、学習支援の前に学習環境がないことが問題であり、子どもの貧困を考えるうえでは住宅の質の向上についても、考えていかなければならないのです。
 最後に、シングルマザーに対して箱の供給だけを行えばいいというわけではありません。支援、ケアの部分をセットで提供していかなければシングルマザーの自立があり得ないからです。こうしたなか、今、企業の中に空き家を活用して社会貢献としてシングルマザーの支援をしていこうという動きがあります。例えば、介護事業所が人材不足を解消するために、保育施設、就労施設と住宅をセットにしてオールインワンでシングルマザーを支えていくという事例が出ています。
 このような事業者が注目しているのが、住宅セーフティネット制度です。平成29年10月に改正住宅セーフティネット法が施行され、高齢者や障害者等、住宅確保要配慮者の入居を拒まない民間賃貸住宅、いわゆるセーフティネット住宅の登録制度の創設を柱とする「新たな住宅セーフティネット制度」が始まりました。
 本県はセーフティネット住宅の登録において、平成31年2月末時点で全国第2位の675戸と登録促進に取り組まれています。しかしながら、政府は2020年度末までに17万5千戸を確保する目標を掲げているものの、全国での登録が8,000戸弱と、まだまだその登録が進んでいない状況にあります。
 この法律には、地方公共団体は住宅確保要配慮者の賃貸住宅への入居を促進するため、賃貸住宅供給促進計画を作成することができる旨の規定が盛り込まれており、本県では愛知県賃貸住宅供給促進計画(案)の策定が進んでいると伺っております。
 そこで、今回の愛知県賃貸住宅供給促進計画(案)の主な内容と、今後の取組について伺います。

《答弁要旨》

(建築局長)
 愛知県賃貸住宅供給促進計画(案)の内容と今後の取組についてお答えします。
 本県では、高齢者や障害者等の住宅確保要配慮者の入居を拒まないセーフティネット住宅の登録を促進するため、社会福祉や住宅を専門とする有識者の意見を参考に、計画(案)を取りまとめたところでございます。
 計画案の主な内容としては、大きく3点ございます。
 一つ目は、計画期間の2025年度までに、1万戸のセーフティネット住宅の登録を目標としております。
 二つ目は、既存の空き家等の有効活用をさらに促進するため、登録できる住宅の床面積の基準を緩和します。
 三つ目といたしましては、法や省令で定められた高齢者や障害者、さらには子どもを養育している者などの住宅確保要配慮者の範囲を拡大いたします。特に、有識者の意見等を踏まえ、国の基本方針で例示された新婚世帯やLGBTなどに加え、本県独自のものとして、失業者、一人親世帯、親等が低額所得者の学生も対象とするものでございます。
 続きまして、今後の取組でございます。
 セーフティネット住宅の登録を促進していくためには、まずは、この計画を広く周知していくことが重要と考えております。
 そこで、住宅に困窮する方々の民間住宅への円滑な入居支援を進めるために、本県が平成30年2月に設置した市町村や不動産関係団体、福祉関係団体等を構成員とする居住支援協議会を通じて、それぞれの会員に計画内容の周知を図ることとしております。
 あわせて、県のホームページに計画を掲載する等により、県民の皆様へ向けて広くPRしてまいります。
 県といたしましては、市町村や関係団体等と連携し、住宅確保要配慮者が安心して生活できるよう、しっかりと取り組んでまいります。

要望事項

 ご答弁頂き、ありがとうございました。要望を申し上げます。
 今回の計画(案)の民間賃貸住宅の登録基準の緩和は、登録の対象を広げることにより、登録住宅の確保を図るものであり、住宅確保要配慮者の居住の安定を図るうえでも、大変良いことと考えます。
 一方で、住宅確保要配慮者の生活の形態も様々あります。特に今回取り上げたシングルマザーの場合では、空き家の利活用などをベースにシェアハウスで共同生活を行い、お互いが助け合いながら就労環境を整備していくことで、貧困問題を解消しようという新しい動きが始まりつつあります。
 このようなシェアハウスは有効なものと考えられますが、国の定めた登録基準ではシェアハウスの各住居の定員は1人と定められており、こうしたシングルマザーは残念ながら利用できません。
 一方、岐阜県が定めた計画では子どもを養育するひとり親世帯に限りシェアハウスの定員を1人と限定しない緩和措置を盛り込んでいます。計画を策定した都市建設部住宅課に伺ったところ、シェアハウスに居住するシングルマザーが子どもと一緒の部屋で生活することは当然であるという議論の下に独自の措置を施したとのことでした。
 2月22日、全国の母子世帯向けシェアハウスの事業者や母子の居住支援に取り組んでいる事業者、団体が名古屋に集い「全国母子シェアハウス会議」が開かれ、私も参加しました。知事にもご参加いただき、ありがとうございました。この会議がなぜ名古屋で開かれたのか。それはシングルマザーを対象としたシェアハウスの中で、全国的にも一目置かれている民間企業が名古屋にあるからです。
 この企業は2年前に愛知県で初めて「シングルマザー自立支援シェアハウス」を名古屋駅徒歩圏内にオープンしました。名古屋駅近隣に設けたのは、シングルマザーの通勤範囲を広げることで、就職先を見つけやすくするためです。全国から年間約100人の相談があるなか、6割は離婚前の母親「プレシングルマザー」とのことです。
 ほとんどが貯金もない無職の母親で、保証人を立てることも難しいことから、賃貸物件を借りることもできません。
 そんな中で、このシングルマザーハウスは、ひと月目の家賃は無料で敷金・礼金も無料、保証人なしで入居が可能です。これは、何もない状態でもまずは「住まう場所」を提供し、そこから「経済的自立」と「精神的自立」を促すことを目的としているからです。経済的自立をさせるため、有料職業紹介事業許可を取得し、シングルマザー専門の就業あっせんをしています。入居者の就労率は100%、家賃もひと月目は無料ですがその後はステップアップしていき、自立を促しています。このハウスは母親達が次なるステップに向けて、生活を整える場所で、これまでには復縁したケースもあるそうです。
「住まいの提供」と「仕事紹介」をセットで行ったのは、全国で初めての事例とのことで一目置かれているのですが、他にも安全・安心な住まいの提供の次に必要な「食事」は、宅食サービスを利用した「毎日子ども食堂」が用意され、また学習支援は近隣にある愛知大学の学生ボランティアが週2回訪問し、チャイルドケアにも繋がっているそうです。
 子どもの貧困対策に積極的に取り組んでいる本県として、ぜひ住宅支援についても踏み込んだ施策として、今後の社会情勢の変化等も踏まえ、シェアハウスの登録基準の緩和を始めとした実用性の高い住宅セーフティ制度が実現されるよう要望します。